日焼け止め

君の香りは日焼け止めだったんだ。
あのケミカルなえもいえぬ香りは君を思い出させる。
気持ち悪いかな。
でも、同じ日焼け止めを使っていても今はあの匂いじゃない。
日焼け止めが変わったのか、君の匂いと混ざったのか今になってはわからない。
ただ、日焼け止めの匂いが君を鮮明に思い出させるんだ。
夏でも白い肌だった。
夏の日差しをよく反射する君の肌は、輪郭を留めなかった。
陽炎ようだけど、君に触れるたび確かにそこにいた。
初めて君に触ったのは、まだ夏休みも始まっていなかった。
手を繋ぎたくて、隣にいる君に手を伸ばしたんだ。
ちょんと触れる。
君は距離を詰めて、手の甲にちょんと触れた。
君の小さな手を握る。
僕の手汗か、君の日焼け止めか。
ぬるっと手が滑る。
互いに気まずい顔をしていた。
でも、離したくなくて握り続けた。
君も強く握ってきた。
その小さな幸せの贅沢さを、今でも覚えている。
バイバイした後の手は、やっぱり、日焼け止めの匂いだったんだ。

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