ヤニ

副流煙が鼻を犯す。
暖かい家を思い出す。
あの人を思い出す。

爺さんがタバコを蒸す。
胸ポケットがいつも膨らんでいた。
シャツ。
仄明るい赤色の寿命を使い果たして、また家の中を煙で満たそうとする。
よくない匂いはいい匂いだった。
その朗らかな人柄とヤニの匂いは同じ棚にしまった。

その匂いに犯されるたびに、その人をどこかで探してしまう。
その人は肺がんで吸わなくなった。

また、最期に一服してくれないだろうか。
戻らないあの日々を思い出すために。

 

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